この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
マーケティングの世界では常識になっているデータがあります。これは小売業の話ですが、「初めて店を利用した客の3ヶ月間の動向比較」に関するものです。初めて来店して以降、その後3ヶ月以内に2回以上の利用をしている客は、一度も利用していない客に比べて固定客化率が7倍以上高いというのです。(ここで言う固定客とは2年間に同じ店を10回以上利用した客を指します。)2回ではなく1回でも固定客になる確率は4倍以上になります。つまり、初来店の客に対しては3ヶ月以内に2回、最低でも1回は利用してもらうことで固定客化が実現できるということです。
こうしたデータに触れた時、塾業界は全ての顧客が「常連客」ですから参考にならないと考えるのは間違いです。例えば、何かイベントを実施して見込み客を集めた後、3ケ月以内に再度接触することができれば獲得率は向上するはずです。ところが、多くの塾でイベントを上手に活用することができません。
理由の1つは、業界人特有の「原理原則主義」です。塾だから教育や学習に関連したイベントにしなければならないという固定概念が邪魔をしています。イベントの実施状況を聞くと、多くの経営者が「テスト対策講座」「各種講習」「合宿」等を挙げます。あるいは保護者を対象とした講演会・セミナーです。もちろん、それらの「イベント」を否定するものではありません。当然、あなたの塾も定期テスト前に「対策授業」をオープン講座として実施し、塾外生(塾生のお友達)の参加を募っていることでしょう。しかし、塾生の友人のほとんどは他塾に通っており、その塾も独自の対策授業を同じ日に実施しているものです。また、あなたの塾生の気持ちになって考えて下さい。友人とはいえ、他塾に通っている生徒を「勉強関連のイベント」には誘いにくいものです。それが「テスト対策授業」ではなく、検定等のオプション企画だとしてもです。
もし、業務関連イベントでなければならないとすれば、住宅展示場で行なわれる「ウルトラマン・ショー」は成立しないことになります。
人は「似たもの同士」でコミュニティを作る傾向にあります。塾に通っている子の友達も塾に通っていると考えて間違いありません。また、今現在(6月)の時点で塾に通っていない子は、当分の間、塾に通い始める可能性は低いでしょう。つまり、これから実施する企画は「いかに他塾生を集めるか」に焦点を当てた戦略が必要となってきます。すると、勉強関連の企画は効果が薄いというわけです。
以前もお話したことがある1つの成功例を紹介します。その塾は「チャリティ・ボーリング大会」を企画しました。ボーリング場のワン・フロアを借り切って200名以上の参加者がありましたが、半数近くは他塾生でした。それは、1つの仕掛けを施したからです。4人一組のチーム戦とし、一人でも塾生がいれば、他のメンバーは誰でもエントリー可能というルールにしたのです。ライバル塾の塾生を「定期テスト対策授業」には誘いにくくても、ボーリング大会ならば気軽に誘えます。
参加者には「あしなが育英会」(もちろん、ひとつの例えです)への募金報告という名目でDMを送ることで、初接触から3ケ月以内に2回の接触をすることが容易になります。また、一度、あなたの塾主催のイベントに参加した他塾生は、別の企画も(それこそ勉強関連のイベントでも)誘いやすくなりますし、参加しやすくなります。ボーリング場というストレスの掛からない場所で塾のスタッフと交流することで、親近感もわいていることでしょう。
ここも重要なことで、生徒にとって知らない環境(例えば他塾の教室)で時間を過ごすことは大きなストレス(緊張)です。ストレスを感じた状態では、そこで得た情報(指導内容・教師の人柄等)をありのままに受け入れることが難しくなります。つまり、悪い印象を抱えたまま帰宅する危険性が大きいのです。あなたも友人に誘われて初めて行ったクラブは、何か居心地が悪く感じるのではないでしょうか。
「ダイレクト・レスポンス・マーケティング」の基本ですが、「人は行動することで次の行動に移す意欲を自己発電する」という原則があります。最初の一歩を踏み出した人は、容易に二歩目、三歩目を踏み出してくれます。ですから、なるべくエネルギーを使わずに(ストレスを感じずに)一歩を踏み出せるオファーを用意することが重要になってきます。上記のボーリング大会や住宅展示場のウルトラマン・ショーは、その一歩目を誘発するオファーだったのです。
人は、5メートルの壁の前に立たされると、飛びつくこともなく「回れ右」をします。しかし、そこにつながる階段を用意してあげれば、最初の一歩を踏み出した人は確実に天辺まで登っていくことでしょう。そうした階段を用意することがマーケティング戦略(戦術)です。最初の一歩を踏み出してもらうオファーは何が最適か。どうした仕掛けを準備すれば3ヶ月の間に2回の接触が可能か。ぜひ、頭に汗をかいて下さい。
本誌でもお馴染みのPS・コンサルティング・システムの小林弘典先生によると、塾業界の市場動向はゼロサム状態とのことです。つまり、あなたの塾が発展するためには他塾生を惹き付けるしかないということです。考えてみれば当たり前のことで、そうした健全な競争によって地域に「より良い学習環境」を提供し、学力レベルの向上を実現することこそ我々塾人が成すべき社会貢献の本道です。こだわるべきはコアにある理念であり方針です。周辺部分についてはもう少し柔軟に考えてもいいと思います。
ぜひ、あなたの塾に合った「住宅展示場のウルトラマン・ショー」を考えて下さい。