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執筆者の写真森智勝

新時代のマーケティング論(39) ワン・ツー・ワン・マーケティングのおススメ 2008年7月私塾界掲載分

この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。

速報4月号で会議の活性化の方法として次のようにお話しました。

「誰かが発言している時に、トップである「あなた」が頷(うなづ)くのです。それだけで会議は活性化されます。」

すると、早速試した数人の経営者の方から「あれは効果的でした。一気に会議の雰囲気が良くなりました。」と報告がありました。ちょっとしたことでも、すぐに実践する行動力に感心しました。

以前、「チラシの電話番号は塾名と同じくらい大きくすべきだ。それだけで保護者は電話を掛けやすくなる。」という趣旨のお話を本誌上でしたことがあります。その時も、ある大手塾のチラシの電話番号が大きくなったのを記憶しています。

失礼ながら、数年前まで勝手な想像として、大手塾の経営者はよく言えば強いリーダーシップを持ちつつ冷静沈着、悪く言えばワンマンで冷酷…有体に言えば「常人にとって最も付き合いにくい人種」と思っていました。しかし、今の仕事を通して、実際は柔軟な考え方の持ち主がほとんどであることを知りました。それが、「大手」になった1つの理由でもあるのでしょう。以前も、私塾界主催のセミナーで講師としてご一緒した大手塾経営者の方が、ご自分の出番の数時間前だというのに私の講演を熱心に聴かれていたのを覚えています。どうやら、勉強熱心なことと行動力は経営者として必要な資質のようです。もちろん、学んだことの全てが役に立つというわけではありません。しかし、実践に移したことの内、10分の1でも効果的なものがあれば、塾は大きく変わることでしょう。

さて、今回は会議つながりで、「経営者の言葉」についてお話します。

私の専門は「ワン・ツー・ワン・マーケティング」ですが、それはマネージメントにも役立つと考えています。「あなた」は複数のスタッフを前に話すとき、当たり前のように「みなさんは…」と呼びかけていないでしょうか。その言葉を聞いた瞬間、人は「自分のことではない」と感じてしまいます。あなたにも覚えがあるはずです。学生の頃、朝礼台の上から発せられる校長先生の言葉が空々しく聞こえたことが…。

あなたの前に何十人、何百人の聴衆がいたとしても、聞いている人にとっては「私」という個の存在です。その「個」に対して不特定多数を意味する「皆さん」と呼びかけても、文字通り「one of them」としか感じられないのです。当然、言葉は心に染み込みません。ぜひ、「あなたは」「君は」と、二人称で呼びかけて下さい。それだけで、同じ内容の話でも一人ひとりの心の深いところに届くようになります。(私もこの紙上セミナーでは極力「あなたは」と呼びかけています。)英語のeveryoneが単数扱いになっているのは意味深いですね。

すると、子供たちと接する講師たちの「呼びかけ」も同様であることに気付きます。あるいは、夏期講習案内等の発行物も…。そう、対象者は常に一人で講師の話を聞き、「あなたの書いた文章」を読んでいるのです。母親向けの文章中に「お母様方は」と書くよりも「母親であるあなたは」と書いた方が効果的です。「自分のこと」として捉えてくれるのです。子供たちに話すときも、一人ひとりの目を見て「君ならどうする?」と問いかけるのです。確実に反応が良くなるはずです。

もう一歩、進めて考えて見ましょう。一般的に不特定多数を対象とするチラシやホームページの文章も、同じ理屈が成り立ちます。読者は一人です。

実は、最近のコミュニケーションの特徴として、話し手も自らを複数形で語る傾向が強くなっています。「我々は…」「私たちは…」。個人塾のチラシですら「私たちは…」を使っていることが多く見受けられます。一つは塾の規模を大きく見せたいという虚栄心?が働くのかもしれません。また、主張の発信責任を分散させたいという気持ちの表れということもあるでしょう。しかし、複数形を主語とした主張はけっして相手の心に突き刺さりません。せっかくの訴えが霧散状になってしまいます。

スピーチにしても文章にしても、基本は発信者も一人、受信者も一人と考えるべきです。そうした観点から全てのコミュニケーション・ツールを見直すことがワン・ツー・ワン・マーケティングの基本です。

塾の規模が大きくなり、塾生数が増えてくると、どうしても「マス」の視点でものを見るようになります。いえ、それは経営上必要なことであり、そのこと自体を否定するものではありません。しかし、「客は常に一人(個)だ」という視点を忘れると、ビジネス・モデル(仕組み)は足元から崩れてしまうものです。とある大企業の経営者も「いくら企業規模が大きくなっても、利益はお客様の手からお金が支払われた瞬間に生じることに変わりはない。」と言っています。

どうぞ、次の会議では「あなたは」「君は」と呼び掛けてみて下さい。最初は難しいかもしれませんが、すぐに慣れます。コツは、一人ひとりの眼を見ながら話すことです。スタッフの誰かと視線を合わせて「君は」と言って下さい。会議の雰囲気が一変することをお約束します。

事務所で一人、執筆をしているところに1枚のFAXが届きました。早稲田アカデミー須野田先生のご逝去を伝える知らせでした。しばし、ことの次第が理解できずに呆然としました。文中、私の講演を聴くためにセミナーに早出してくれた経営者こそ須野田先生その人でした。気さくなお人柄と快活な笑顔が忘れられません。今は、ただただご冥福をお祈りするばかりです…合掌。

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