この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。 先月に続いてWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のことを書きます。結果はご存知のように日本の連覇という偉業で終わりました。韓国とは5度の対戦をするというマッチレースの様相を呈し、アジアの野球レベルの高さを世界に知らしめました。
さて、現役大リーガーが居並ぶアメリカ、ドミニカ、プエルトリコ等の野球強豪国に対して、これまで劣勢と思われていたアジア勢が上位を占めた理由は何だったのでしょうか。
最も大きな理由の一つはモチベーションの違いです。報道によると、アメリカ国内のテレビ視聴率はアメリカ戦でも2%程度だったようです。アメリカでのWBCは、オープン戦と大差ないエキシビションマッチ、花野球という認識です。同時期に開催されていたバスケットボールの大学選手権にアメリカ国民は熱狂していたそうです。
それに対して、日本では野球中継の視聴率低迷が言われ続けている中、30%を越える視聴率を記録し、国民がこぞって注目していたことが分かります。宮崎県の事前キャンプには平日にも関わらず、連日4万人を超えるファンが押し寄せました。注目度の高さは韓国でも同じでした。
こうした国内の注目度の差は、当然のことながら選手のモチベーションの差となって表れます。代表に選ばれることを「名誉」と感じる日本選手と、一種のボランティア的な苦役として捉えるアメリカ選手との差は歴然です。多くの一流大リーガーが辞退したり、ちょっとした?怪我で欠場したりしてまともにチームを組めず、最後は専門外の選手が一塁や右翼を守らざるを得なかったアメリカに、日本が負ける道理がありません。もちろん、ジーター選手をはじめとするアメリカ代表選手が手を抜かず、真剣に戦っていたことは認めます。それでも、日本とのモチベーションの違いは明らかに見て取れました。
注目度がモチベーションに大きく影響することは、様々な調査で明らかです。スーパーやデパートで働く学生アルバイトにアンケートを採ったところ、不平や不満を表明する割合が働く場所で大きく違ったそうです。店内の売り場で働く学生に比べて、バックヤードで働く学生の方が圧倒的に不平・不満を感じているのです。同じ「時給800円」なのに、なぜ違いが生じるのでしょう。
売り場は常に「人の目」があり、時には「ありがとう」や「ご苦労様」の労(ねぎら)いの言葉を掛けられることもあります。そうしたことがモチベーションをアップさせることに役立っているのです。
4月、多くの新人が入社してきました。塾業界に飛び込んでくる若者達は皆、意欲に溢れています。しかし、当然のことながら理想と現実のギャップに悩み、いつしか意欲をしぼませてしまいます。そうした時、先輩社員の「頑張っているね!」の一言がどれほど救いとなり、励みとなることか。人は、「自分を見てくれている人がいる」と自覚した瞬間にモチベーションを高くするのです。
同時に、新人達には「3年間は人の3倍仕事をすること」をおススメします。最近の傾向として入社3年以内に離職をする、いわゆる「第2新卒」の割合が40%近くになろうとしています。中には、研修終了後、配属先が決まった瞬間に「こんな仕事をするためにこの会社に入ったのではない」と言って辞めていく人も多いと聞きます…もったいない。どんな職場でも人の3倍働けば、必ずそれを見ている人がいます。認めてくれる人がいます。「あなた」を引っ張り上げてくれる人がいます。万が一、3年間、人の3倍働いても認めてくれる人がいなければ、その時初めて、その会社を見限ればいいのです。
さて、モチベーションの違いだけで日本はWBCに優勝できたのでしょうか。いくらモチベーションが違ったとしても、戦力的にはアメリカ、ドミニカ等の方が圧倒的に上回っていることは誰もが認めることです。
私は、2つ目の理由が「事前準備」にあると考えています。
報道によると、アメリカは前回の失敗を教訓に3日間の合同練習日を設けたそうです。(前回はたったの1日だったようです。)前回よりは日数を増やしたとは言え、3日間では充分な練習はもちろん、コミュニケーションを図ることも難しい。チームとしてのまとまりや一体感を作ることは不可能です。日本は2週間以上のキャンプを実施しました。前述のように、数万人の観衆が注目する中でのキャンプです。また、裏方を務めるスコアラー達が各国の戦力を調べ、対戦国選手個々の特徴まで分析していました。イチロー選手や松坂投手が中心となって決起集会を開き、選手間の意思疎通も十分に図りました。その違いは明らかです。
いかに優れた選手を揃えていても、事前準備が充分でなければ勝つことが出来ません。日本と韓国は、この点でも他国を圧倒していました。
さて、塾の現場ではどうでしょう。多くの教師、特にベテランの教師になると、日々の授業に対して事前準備を怠る傾向が強くなります。自らの指導力に対する過信が生まれます。確かに、経験を積むことによって現場の空気をつかみ、臨機応変に対応する能力は向上します。しかし、それだけでは単なる「行き当たりばったり」の授業展開となり、更なるスキルの向上は見込まれません。これから1年間に向けての、そして今日の授業に向けての事前準備は塾全体の力量を高める重要な要素です。ベテラン教師がその行為を放棄し始めた塾の力量は、その時点で止まってしまいます。それを見ている新人達の力量がそれを上回ることは決してないでしょう。
たとえ大手塾でも、そうした地道な作業を軽視していると負けてしまうことをWBCのアメリカが、ドミニカが教えてくれています。野球弱小国と思われていたオランダが、優勝候補と目されていたドミニカに2度も勝利したように、塾業界においても下克上は起こり得るのです。
この四月に塾業界に飛び込んできた若者達が活き活きと働き、伸び伸びと成長していくことを切に願います。そうした環境を提供していくのも先輩塾人たちの大きな役割なのです。