この記事は塾生獲得実践会の森智勝氏のご厚意により、全国学習塾援護会のHPから転載したものです。
本誌を発行している全国私塾情報センター主催の「秋季4大都市縦断セミナー」の最中(さなか)に、この原稿を書いています。すでに東京会場は終了したのですが、これまでになく参加者が多く、真剣味も例年とは違っていたように思います。やはり、この夏、塾業界を襲った激震、ナガセの四谷大塚買収のニュースに多くの中小塾が危機感を持ったのでしょう。大手塾の合従連合は中小塾にとっては脅威かもしれませんが、こうした危機感は重要だと思います。その危機感がバネになって塾経営を飛躍させることにつながります。
今回、ご参加できなかった本誌読者の皆さんに、私の講演内容を要約してお届けします。(一部「速報」十月号と重複します。)すでに本誌で述べてきたことですが「認知7回の法則」と言います。これまでの塾の在り方を再度振り返り、来春への戦略構築のために復習をしてください。
顧客離れの理由Ⅰ「卒業」
退塾(顧客離れ)には大きく3つの理由があります。1つが「卒業」です。これはニーズで成り立っている業種にとっては避けては通れない宿命です。例えば医者、弁護士、司法書士などはクライアントの懸案事項が終了した時点で「卒業」ということになります。特に塾は、顧客のボディゾーンが小学5年生~中3まで、広く見ても10年程度の範囲の年齢層を対象とする特殊なビジネスです。文字通り「卒業」が最も大きな顧客離れの原因です。
だからと言って、この「卒業生」に対して何もアプローチをしないというのはもったいない。よく、口コミ・評判という言葉を使いますが、「口コミとは塾の話題を話してもらうこと」「評判とは塾の評価について話してもらうこと」と定義した場合、次のことが言えます。「口コミは主に現役生とその保護者が発信者となり、評判は卒塾生とその保護者が発信者となる」。また、残念なことに、ニーズで成り立っている塾にとって顧客の塾に対する興味は「卒業」した瞬間から急速に薄れていくものです。ですから、何もアプローチをせずにいると、せっかく志望校に合格させても塾の評判を広げてもらえないという現象が起こります。せめて、年に1回は葉書を送って「あなたのことを忘れていませんよ」というメッセージを伝えることです。
顧客離れの理由Ⅱ「飽きる」
2つめの理由が「飽きる」です。塾の顧客は全員がいわゆる「常連客」「馴染み客」です。常連客とは「大いなるマンネリ客」と言ってもよいでしょう。すると、必ず「浮気」をします。
例えば地場で長く営んでいる居酒屋の常連客も、駅前に新店がオープンすれば行ってみたくなるのが人情です。テレビのドキュメント番組で見たのですが、ある大手居酒屋チェーン店がオープンした日、長年営業していた地場の居酒屋は閑古鳥が鳴いていました。そこの店長は「うちは常連客で成り立っている店なので、今の客を大切にしていれば問題ない」と言っていたにもかかわらず…です。
人は新しいものに惹かれる性質を持っています。そして、実際に行ってみると、大手居酒屋チェーン店はけっこう「安く」「美味しく」「楽しい」ものだったりします。
そして、ここからが問題です。常連客は自らが常連客だったことを自覚しているが故に、ある感情を持ちます…「あの店長に悪いな」…これです。次にいつもの店に顔を出すと、「おい、この間、大手居酒屋に行っただろう」と皮肉の一つも言われたら嫌だなと思います。で、ますます足が遠くなる…こうして顧客離れが起こります。以前お話した「感情の論理」の重要性がお分かりいただけると思います。
塾で言うと次のようなことです。ある日、塾生が言ってきます。
「先生、ごめんね。友達に誘われて、夏期講習だけ新しく開校した○○塾に行くね。お母さんに相談したら、『せっかく夏期講習を無料でやってくれるのだからいってもいい』と言っていたから。」 塾の先生も内心の動揺を隠して言います。 「そうか、分かった。しっかり勉強して来いよ。9月になったら、どんな授業をしていたか教えてくれよな。」 「分かった。しっかりスパイしてくるね。」
…9月になっても帰ってくることはありません。行ってみると、その大手塾は綺麗で楽しく、講師も若く…魅力的なのです。そして、「塾長に悪いな」という感情を持っているがために、ますます帰り辛くなるのです。最近、各地に進出している大手塾が発表しているデータを見ても、6割の生徒が元塾には戻らないことがはっきりしています。
飽きさせてはダメなのです。下世話な話ですが、男女の仲でも一方が「浮気」をした場合、元の鞘(さや)に収まる確立は低いものです。そして、大切なことは「顧客の立場に立った想像力」です。あなたの「客」が親子で、あるいは友達同士でどんな会話を交わしているかを想像してみてください。保護者に「せっかく無料なのだから夏期講習は○○塾に行ってみたら」と言わせてはいけないのです。
あなたの塾生は「飽きて」いないでしょうか。判別する方法は簡単です。授業終了間近になると、時計を気にし始める塾生は飽きています。そうした塾生は授業にも5分、10分と遅刻をしてきます。そんな塾生が現れたら要注意です。瞬く間にクラス全員に感染します。
「飽きる」を防ぐ「形」を作れ!
「飽きる」を防ぐには以前ご提案した「小さな変化」(講座№21参照)を心掛けることです。そして、新しい提案としては次のことを実践してみてください。 補習塾の場合、授業そのものも学校の後追いになって新鮮味がなくなります。それも「飽きる」原因です。そこで学校の先生とは一味違う?演出が必要になります。その日の授業で1つでもいいですから「学校の先生が教えない小ネタ」を用意するのです。子供たちが興味を持って聞き、翌日、学校の友達に話したくなるような「小さなネタ」です。言い換えると「小さな感動」を1つ、持って帰ってもらうのです。例えば、社会を教えるときは「なぜ秀吉は大阪幕府を開かなかったか」「近畿とはどんな意味か」などです。これらは私がセミナーの冒頭で「マクラ」に使っているネタなのですが、お会いする先生から「あの歴史ネタが楽しみです」と言ってもらえたりします。 それぞれの専門分野で披露できるネタを1日ひとつ、調べておくことです。そして、その「小ネタ」をデータベース化していくのです。そうやって全ての講師が共有化できる仕組みを作っていきます。講師は毎年、毎年、同じことを教えていますが、塾生にとっては初めて学ぶ内容です。今年の中3生が興味を持つ話題は来年の中3生も同様のはずです。 全てに共通することは、何かを成そうとした場合は必ず「形」にすることです。「子供たちが興味を持つ授業をしよう」というのはスローガンです。スローガンで終わったのでは何も前進しません。前記のように「子供たちが興味を持つ授業にするために『小ネタ集』を作ろう」となって初めて塾は進化を遂げます。あなたの塾は、例えば「コミュニケーション重視」を講師に話すとき、「積極的に塾生に声掛けをしよう」で終わっていませんでしょうか。それでは3日も経たずに元に戻ってしまいます。 3つめの退塾理由は「忘れる」ですが、それについては次号で詳しく解説します。戦いは始まりました。本誌読者の塾が、この「勝ち残り」を掛けた戦いに勝ち抜くことを心から願っています。(次号へ続く)